17日。いよいよウィーン滞在も今日1日となった。明日は午前中にもうホテルを出発しなければならない。

夜はシュターツオパーでのコンサート鑑賞が入っているけど、昼間はどうしよう?と相談、一応メインを
ベルヴェデーレ宮殿のオーストリア・ギャラリーに決め、あとはまだ一度も乗っていない路面電車
乗り降りしながらの散歩ということにする。まだまだ見どころはいっぱい残っているのだが…。
この日も例によって朝食をたらふく詰め込んでいざ出発。残念ながらこの朝食も、全種類のパン・おかずを制覇しきれない
まま終わりそうである。

路面電車に乗れるところまで地下鉄で出てから乗り換える。ウィーンの中心部を取り囲む環状道路は
「リンク」と呼ばれており、このリンク沿いに山手線よろしく路面電車がぐるぐる回っている。
もちろん、他のところへも四方八方に走っているのだが、路面電車というものを体験するにはこのリンク沿いに
1周してみるのが一番である。1周約20〜30分で必ずもとの場所に戻ってくるので
安心して乗っていられる。


 中はこんな感じ。ワンマン式である。


まずは、かの金色に輝くヨハン・シュトラウス像で有名な市立公園へ。ウィーンの街はもともと記念碑や銅像が多い
ことで有名らしいが、この公園にも数々の像があるとか。もっとも、我々が散策している間に出会ったのはヨハン・シュトラウスの他には
シューベルト、ブルックナーだけだったけど。
我々がシュトラウスの像のところまで来たとき、日本人のおばさんが二人「あ、ここよここよ、シューベルト!」と
写真の撮りっこをしていた。頼まれてシャッターを押してあげ、我々も1枚撮ってもらったが、誤りをちゃんと教えてあげなかった
私はイジワルだっただろうか? すぐ気づくと思ったんだけど。

この日も本当にいいお天気で、公園の散策はすごく気持ちよかった。ベンチの並び方がちょっとおもしろい。日本だったら
ここまでたくさん、しかもずらっとくっつけて並べないだろう。下の像の写真はシューベルトである。






公園を出て再び電車に乗り、ウィーン大学(写真左)のところでちょっと降りてみる。この日は何か学術的イベントが
あったらしく、受付が出来ていて人が出入りしていたので、あまり奥には入らずちょこっとのぞいてみただけですぐに出た。

そこから歩いてすぐのところに市庁舎(写真右)があったが、あいにくどこやらが補修中らしくて、ちょうど写真を撮るときに立つ位置に
思いっきり仮庁舎?が出来ており、全景はおろかせっかくの美しい塔さえ十分撮ることができず、くやしい思いをした。写真の左下に
ちらっと見えてるのがその邪魔物である。




このウィーン市庁舎前から路面電車に乗ってベルヴェデーレ宮殿に向かう。
これが路面電車の停留所の表示だが、一番上に小さく「Rathauspl.Burgtheater」と書いてあるのが停留所名。
丸い看板の下に「D」「2」とあるのがここを走っている路線の番号である。2は例の山手線、Dがベルヴェデーレ方面に向かう
線になる。乗ってからほんの14,5分で目的地に到着。



ベルヴェデーレ宮殿は、トルコ軍からウィーンを救った英雄プリンツ・オイゲン公(1663〜1736)の夏の離宮で、
オーストリア風バロック建築の代表格に挙げられるという。上宮・下宮の二つに分かれており、上宮は
19〜20世紀のオーストリア絵画を展示した美術館、オーストリア・ギャラリーに、下宮は中世とバロック美術館に
なっている。写真左は上宮から下宮を眺めたところである。

その写真だが、係員にカメラを見せて「No flash picture,ok?」と尋ねたところ、「上(=ギャラリーのある部屋)はダメ、ここ(=エントランス)
ならいい」と言われた。もしかして「フラッシュの可否」だけについてそう言われたのかな、という気がしないでもなかったが、
それ以上どう確認していいかわからず、もーいーや、と絵の写真は撮らなかった。ということで内部の写真はこの
シャンデリアのみである。


オーストリア・ギャラリーは特にクリムトの代表作「接吻」、シーレ「死と乙女」などで知られており、ミュージアム・ショップも
この「接吻」を扱ったグッズ一色といっていいほどだった(町なかのみやげ物屋でもクリムト・グッズはよく見かけた)。
が、この絵についてはあまりにも有名なのと金ぴか?の色彩がイマイチ好きじゃない…と思っていたのだが、
やはりホンモノは違う。
金色といっても嫌味のない輝きで、抱かれている女性の恍惚とした表情、色彩の美しさ、しばらくじーっと見入ってしまった。
実物を見たあとではグッズもさほど抵抗がなく、どれか買って帰ろうかと真剣に物色してしまった。値段と内容が折り合わなくて
結局買わなかったけれど。

上宮を見終わった時点ですでに昼。いいかげんくたびれてたが、入場料は下宮のそれも含んでいるのでやっぱりそっちも見て
いこうということになり、写真左にあるベンチでちょっと休憩してからこの広ーい庭園をだらだらと下宮に向かって下っていく。
途中にはなぜかグラマラスなスフィンクスがいくつか。




下宮は中世とバロックの作品ということで、またまた宗教画のオンパレード(100%じゃないけど)。前にも書いたが、
キリスト教的下地のない人間にとってはあまりに続くとだんだんつらくなってくる。どういう場面を描いているかわからない、という
ことだけでなく、かりに聖書の知識があったとしても、あまりにたくさんのそれを見ていると「重たく」なってくるのである。
最後の方、十字架にかけられたキリストの絵が何枚も何種類も続いたのには本当に参ってしまった。
ということで、かろうじて撮ったのはこれだけ。絵はやっぱりありません。



もともと西洋文学を読むには聖書とギリシャ・ローマ神話の知識は欠かせないと思っていたが、
こういう美術鑑賞も同様。しかしながら、こうやってまさにこの地に身を置き、どっぷり漬かって見るには知識レベルだけでは
太刀打ちできない「壁」も存在するような気がする。
もちろん当然ながら人種・宗教を問わずこういうものをすんなり受け入れ、その魅力を十分に堪能できる人もいるわけだが、私には
ちょっと無理かも…と思った美術館探訪 in Austriaであった。


さて。全部見終わってすでに1時過ぎ、今度は歩いてウィーン市中心部に向かう。 実はまだほとんど買い物らしい買い物を
していないので、後は買い物と昼食が目的である。
二人とも実際には空腹…というほとでもないけど、少なくともまともに何か食べたい気分。

そういえば、ウィーンに滞在してもう4日目というのにいまだにオーストリア料理というものを食べていない。
ここでもご多分にもれず日本人には量が多すぎるという話に、そうでなくても食欲があまり湧かないまま過ごしてきたため、
とてもフツーのレストランに入る気がしなかったのである。

どうしよう、どこで食べる?と、さっぱりあてのないままとにかく中心部を指して歩き続ける。そうしたら、とあるカフェの
ランチタイムメニューに、ウィンナーシュニッツェル(子牛のカツレツ)とサラダと後は何だろう、とにかくそれだけ
セットで10ユーロ?じゃ、2人でそれ1つ頼んで、後はそれぞれビールでも頼んだらちょうどいいじゃない!
これはいいぞと思ったら、…あら?ダンナはどこ? カメラを構えてすぐ立ち止まる妻にもうすっかり慣れきって、後は
適当についておいでとばかりに先の方をすたすたと。ちょっと待ってよー!

追いついたときにはもう引き返してさっきの店に入る気力も失せ、ガイド女史から聞いていたお店も探し出せず、
結局なんと日本料理の店に入ることに。
ウィーンにはいくつか日本料理店があり、我々が入ったのは「天満屋」というお店。ランチタイムぎりぎりの2時過ぎ、
くたびれてたしお腹もだいぶすいて…と、2人とも沈黙&沈滞気味だったのだが、運ばれた料理を見て一気に復活。
私は幕の内弁当、彼は煮込みカツ御膳を頼んだのだが、これは幕の内。
日本なら必ずマグロのお刺身だろうけどここではサーモン、お刺身のツマもサニーレタスである。でもサバの塩焼き、
かぼちゃの煮つけ、何より味噌汁のおいしかったこと!!これを飲んで一度に元気回復した。

天ぷらの一番上の緑色のもの、これが例のおばけきゅうりだったのにはぎょっとしたが、食べてみたらそんなに
ヘンでもなかったし、ちゃんと大根おろしにしょうがも添えられ、かなりの量のご飯だったけど全部食べてしまった。
やっぱり私は日本人である。ちなみに、これが本日の昼食兼夕食となった。 



彼の頼んだ煮込みカツ御膳は、結局カツどんのカツが別に添えられているといった趣のものだったが、これも卵がやや
固めなど多少の難はあるものの、なかなかおいしかったらしい。

この後、とにかくまったくといっていいくらい買い物をしていないので、まずそれである。彼はドゥブリンガーという楽譜の店に
出かけ、私はそのあたりをスナップしつつお買い物。もう一度シュターツオパーの一角にあるアルカディア(14日にちょっとだけ
立ち寄った音楽グッズショップ)に入ったり、そのあたりのみやげ物店をかたっぱしからのぞいたり、やっと「ウィーンに行って
きました」と言える程度のモノがそろった。

また下の写真はホテルの地下にあったスーパーマーケット。私のスーパー好きは前に書いたが、ホントにここは掘り出し物が
多かった。ウィーンのお菓子のおみやげというと「モーツァルト」という丸い小さなチョコレートが定番だが、スーパーだと
もっとはるかに多い種類の、しかも安いチョコが(スイス製やドイツ製のものもまじっていたが)山のよう。
ここではおみやげ用のお菓子やオーストリアならでは?の食品をかなり調達した。詳細はまた別項で述べる。




そしていったんホテルに戻って着替え、いざ本日のメインイベント、シュターツオパーでのバレエ鑑賞である。
先日のコンサートと違って今度は見た目でかなり楽しめるし、曲もモーツァルトということで、さほど緊張しないままお出かけ。
またまたエクシちゃんの出番である。

ムジークフェラインも美しかったが、シュターツオパーはまた本当に美しい建物だった。舞台上手側の3階ボックス席の最前列と
いうことで、眺めはホントに申し分ない。こういう場所は2度目ということで即撮影モードに入って、まずホール中を撮りまくる。
今まで映画でしか見たことのなかった光景が、目の前に広がっていることの感激ったら!
ただ、手首にしっかりとストラップを捲きつけて撮っていたが、下にカメラを落としたらどうしようと思うとちょっと怖かった。





オーケストラはウィーン・フィルのメンバー。この日の出し物はシェークスピアの「お気に召すまま」という非常にややこしい
恋愛喜劇で、女性が男装し、男性が女装し、それにホンモノの女性が、男性が恋をし…と、とても一口では説明できないシロモノ。
それにモーツァルトの音楽を用いてバレエにしたといういわば「新作物」である。

演出も新感覚のようで、まだ客席もざわついているうちに、気づいたらランニングにGパンの若者が自転車でステージに出てきて
いつのまにか寝転がって本を読んでいる。そのうち客席が暗くなり、彼は起き上がり、音楽が始まり…彼はいわば狂言回しの
役どころらしく、場面が変わるたびに「Thema 4!」といった調子でそれを宣言、唯一「せりふ」のある踊り手だった。
ちなみに一番かっこよかったのも彼。



音楽は最初がフルート四重奏曲ト長調に始まり、あとはディヴィルティメント、交響曲、セレナーデなど各種の作品からの抜粋で
どんどん進められていく。ウィーンフィルのコンサートマスター、ライナー・キュッヒルがこの日もコンマスを務めていたが
もう彼が大活躍。上から見ているとチェロが暇そうに振り返って舞台を眺めているというのに、キュッヒルはもう弾きまくり、
ほとんどVnコンチェルト状態。すごい…しかしもうちょっと低弦も使うアレンジにしてもよかったんじゃないの?

オーケストラピットはもちろん1階席よりさらに下になっているし、我々の席は3階のボックス、しかもまだまだ上に客席は
連なっているという状態だが、このキュッヒルの音はすごくよく聞こえた。もちろん彼の音がすばらしいのだが、音響という面で
ホントによく出来たホールである。19世紀半ばの、コンピューターなどない時代の建築だというのに。
おそらくこの地の乾燥した空気も大いに影響はしているのだろう。こういう空気、建物の中でこういう音楽は何世紀にも
わたって演奏され、鑑賞されてきたのだと思うと、本当に感慨深い。

そして休憩時間になり、ホールの外に出てみる。日本のコンサートホールでも、ロビーにちょっとした飲食のコーナーがあって
休憩時間にはワイングラスやコーヒーカップを片手に、人々がにこやかに談笑する…という光景は珍しくなくなってきたが、
こちらではずっとこうやって楽しんできたのだろうか。
ロビーはかなり狭く、彼がビール、私がジュースを手にするまでかなり時間が必要だったが、ムジークフェラインと違って外の通りに
面したバルコニーがあり、ここで夜風にあたるのがすごく気持ちよかった。周りを見回せば100年以上を経た
美しい壁や天井の装飾、にこやかに談笑する紳士淑女、子供も2人ほど見かけたけど、なんとちゃんとネクタイの正装!
んー、別世界…。

 ここがロビーの飲食コーナー。食べ物も結構ある。

 上の写真は右へ抜ける扉があって、そこを出ると…

  

このバルコニーに出る。バルコニーは外に面していて、向こうに見えるのは通りを隔てたビル。天井の装飾に注目!

ところで服装だが、タキシードにドレスという本格的正装?は見かけなかったが、だいたい中年以上の人の場合男性は
ジャケットにネクタイが多い。女性はスーツ、ワンピースとさまざまだがドレスアップの雰囲気は十分感じられた。
若者はジーンズもいたし、こちらはかなりバラエティに富んでいたようだ。

我々はといえば、彼は一応ジャケットにネクタイ、ただしスーツにあらず。私はシルクのセーター(といっても見た目は
まったくフツー)とスカート。ネックレスぐらい何か持っていけばよかったと思ったが、別にそれで十分で、
場違いで恥ずかしい思いをすることはなかった。ムジークフェラインでも同様である。

さて、美しい踊りと音楽を堪能し、満足しきって帰途につく。踊りをする人は身のこなしが本当に美しいなと
カーテンコールを見てあらためて思った。エントランスを出てふと振り返れば、タクシーでご帰還の人もちらほらと…。




シュターツオパーのすぐそばが昼間も通り過ぎたカフェ・ザッハー。もう10時を過ぎていたが、まだ営業している。
ショーウィンドウにはかの有名なザッハ・トルテが…右下の写真の丸いのがそれ。これは昼間、飛ぶように売れていた。
そんなにおいしいんだろうか?
チョコには目がないダンナは食べたそうだが、見るからに濃厚そうで私はパスなんだけど。ショップはさすがにもう閉まっていた。




ケルントナー通りを地下鉄のシュテファン・スプラッツ駅に向かって歩いていったのだが、閉まっている店のショーウィンドウだけ
輝いているのに妙に惹かれて、つい立ち止まってしまう。これ、E-1で撮ってみたかったなあ。






シュテファン・スプラッツ駅からは乗り換えなしで10分ほどですぐ帰れる。ウィーンの地下鉄はかなり本数が多く、いつもほんの
2,3分で次の電車が来るのがありがたかった。 これが地下鉄の時刻表。遅くなっても結構本数が多い。




さて、これでウィーンでの観光はほぼすべて終わった。明日は10時45分にもうお迎えの車が来る。
じゃあチェックアウトまで写真の整理でもしてのんびりしてようか、と話しながら帰ったのだが、実はこのとき
予想してなかった最後のイベントが待ち受けていた。それが何だったかは、また次の日記へ…。



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