さて、16日。この日はウィーンを離れ、列車で1時間20分ほど離れたドナウ河畔の町、メルクに向かう。メルクからは
乗ってドナウ川を下り、デュルンシュタインクレムスという町まで来たところで列車に乗り換え、再びウィーンに
戻ってくるという行程で、メルク〜クレムス間の約35kmがヴァッハウ渓谷。世界遺産にも登録されているという
名勝である。

日本でガイドブックやネットを駆使して調べた結果、以上の行程の船・列車の切符およびメルク修道院(これも有名な観光
ポイントらしい)の入場券がセットになっているヴァッハウ・コンビチケットというものを利用するといいらしいことが
わかった。さらに列車や船のダイヤもOBB(オーストリア国鉄のHP)などを利用し、バッチリ把握。日記にも書いたけれど、
旅行会社の社員でもない私が、こんなことを調べることができるなんて、つくづく時代は変わったものだ
感慨しきりだった。

この朝、いつもどおり6時半からの朝食をしこたま食べた後、ウェストバンホーフを8:23分発の列車にて出発。この
ウェストバンホーフ駅は昨日の旅行記にも書いたとおり、我々のホテルのすぐそばにある地下鉄の駅だが、同時に
ドイツやスイスからの国際列車や、国内のインスブルック・ザルツブルク方面からの列車が到着するウィーンの
「表玄関」
にもなっている。そのわりに?そのせいで?あまり「きれい」ではなく、少々怪しげな輩も多く徘徊するとかで、
初日の現地ガイド女史によるオリエンテーションの際、「用がないときは近づかないほうがいい」と注意を受けていた。

いつもは地下鉄のホームにまっすぐ向かうのだが、この日は2階の列車乗り場へ。女史の注意を思い出して少々緊張
したが、日本と同じような列車の発車時刻・到着時刻の表示で自分たちの乗る列車を確認、調べたとおりのホーム番号
だったことに安堵してすぐそちらへ向かう。ここもやっぱり改札口はない(車内で検札を受ける)。
車内はがらがら、車両中央部で座席の向きが変わっているのが目を引いた。






この列車はいわば「快速」にあたるらしく、途中の小さな駅は通過するところもあったが、概してのんびりペースで走り続けた。
車窓の風景はといえば、14,5年前のアニメ映画「銀河鉄道の夜」のワンシーンを彷彿とさせるようなのどかな田園風景が続く。
もちろん必死こいて撮り続けたが、あいにく窓はひどく汚れているし車内の様子も写り込むし(PLフィルターを置いてきたのをいたく後悔)、
しかもすてきな被写体に限って窓のすぐ近くをすごい勢いで通過(いや、通過してるのは我々の列車のほうだが)するしで
さっぱりいい写真が撮れなかったのが残念。これはかろうじて写った貴重な中の1枚である。




さて、9時41分、列車はメルクに到着。こちらの駅のプラットホームは本当に低い。駅によってはまったく
フラットである。
そういえば映画でこういう感じの列車の乗り降りのシーンを見たなと思い出しつつ、シャッターを切る。自転車まで
乗り降りできるのはかなり驚きである(ちなみにウィーン市内の路面電車も自転車OKだった)。




メルク発の遊覧船はこの後11時と13時50分。修道院だけでなくメルクの町も観光したいし、昼食もここで食べることにして
午後の船にする?それとも船の中でも軽食は食べられるみたいだし、11時の船にしてデュルンシュタインかクレムスでたっぷり
時間取ったほうがいい?などと2人で話しながらまずはメルク修道院に向かう。






しかし、11時の船になんぞ間に合うわけがないことにはすぐ気づいた。ご覧の通りの風景である。日本でいえば
妻籠の宿とでもいおうか、古い街並みが中世そのままのたたずまいを見せて本当に美しく、もう私はひっかかりまくり、
シャッター切りまくり。ウィーン市内とはまったく別の雰囲気を持つ建物に、すっかり夢中になってしまった。
そして、いよいよ修道院だが、小高い丘の上に建っているので見失う心配はないものの、どこから行けば門にたどりつくのか
ちょっととまどった。が、さほど迷わず無事到着。






写真上左の地図が修道院の全景をあらわしている。一番左手の赤い屋根の建物が修道院、中央や右の緑の部分は庭である。
地図の下部が(描かれていないが)メルクの町になっている。
右は修道院の正面玄関とでもいおうか。この後中庭を経て建物の中に入る。






ほとんど美術館といっていい雰囲気の中、礼拝、儀式の際に用いると思われる道具・衣装のきらびやかさに目を奪われつつも、
昨日の昼間の経験から時間をかけすぎないよう適当に切り上げつつ見て回る。
ここもフラッシュをたかなければ撮影OKだったので、しっかり撮りながらだったのはいうまでもない。

ひととおり回って、さて次は?と扉を開けたらそこは隣の棟へ連なるバルコニー。ああ気持ちいいと端によってみると、
そこからの風景のなんとすばらしいこと!ちょうど安野光雅の絵本をみるような、おとぎ話の世界に紛れ込んだような
眺めである。
写真右は今から乗る予定の遊覧船の船着場。手前に伸びているのがメルク川、奥に広がっているのがドナウ川である。
船は川の合流点までバックし、写真右方向に向かって川を下ることになる。




しばらく眺めを楽しんだ後、再び室内に入ったが、とたんにものすごい数の本に圧倒された。あのディズニー映画「美女と野獣」
本好きのヒロインが野獣に図書室に連れていってもらうシーンがあったが、まさにあのまま!
本当にこういうところがあるんだ…と私はひたすら感嘆するばかり。実に10万冊の蔵書と手書きの本1888冊が収められている
そうである。
なお、この部屋には係員がいて、カメラを持った人を見ると「フラッシュはたかないで」と注意を促していた。他では
見かけなかったのでいかにこの部屋の管理に気を遣っているかがうかがえる。はい、わかっております。貴重な財産ですものね。
この部屋を出ると今度はらせん階段があり、これを降りて外に出る。写真は階段を見上げて撮ったもの。




そして圧巻は最後に入った修道院付属の教会の礼拝堂。ウィーンのシュテファン寺院は全体にどこか暗い感じだったが
こちらはまばゆいばかりの絢爛豪華さで、その装飾の華麗なことといったら!



この修道院はおよそ900年におよぶ歴史を持つという。付属のショップでは日本語版の解説書も売られており、1部購入して
帰宅後読んでみたが、歴史の荒波の中でいかにこの祈りの場が守られてきたか、そのためにどれだけの人が努力を重ねて
きたかにため息が出る思いだった。歴史の解説文の、最後の部分が印象的だったのでここに引用しておく。

「メルク修道院の歴史や文化的背景は、一方では重荷ではあるが、同時に、教会としての使命を果たすための大きな可能性を
持っており、常に祈りと労働の中心の場であってほしい。我々は伝統を基礎にしながら、自由な精神を保っている。」
                                 (ブルクハルト・エレガスト第66代修道院長の言葉・日本語訳 青柳憲子)

さて、これにてすべて見学終了、外に出て今度は庭の方へ。
どこかの小学生のグループが社会科見学なのか遠足か、先生に引率されて我々の後になり先になりしてにぎやかに
拝観していたが、教会の外に出たらちょうど彼らがお弁当を食べているところだった。かわいらしくて思わずシャッターを切る。




左が庭の門をくぐってすぐ目に飛び込んでくる様子。このようにいかにもきれいに整えられた「庭園」の奥に「森」と呼んだほうが
いいような雰囲気のところもある。その「森」のところどころにオブジェがあったのはなんだかちょっとそぐわない気がした。
連なっているレンガの塀は、いつ頃からのものなんだろう。






修道院の見学を庭も含めすべて終えて、再びメルクの街中に戻ったのはちょうど12時過ぎ。30分前には船着場(歩いて
ここから10分ほどらしい)に行きたいので、お昼をゆっくり食べて休んだらちょうどいい感じである。
写真左は土産物店で見かけたすず細工?の壁飾り。これは一目見て気に入ったのだがあいにくお店が昼休み。開くのを
待ってたら船に乗り遅れてしまうため、泣く泣くあきらめた。今回の旅行では心から「欲しい!!」と思い、買えなくてくやしい
思いをしたものが2つあるのだが、その1つがこれである。
写真右はツーリング中のグループ。ドナウ川沿いにサイクリングをする人はなかなか多いようで、もっと重装備の人もたくさん見かけた。




どこに入ろうかと迷った挙句、英語のメニューがあったのが決め手となってとあるホテルのレストラン(といっても道路に面した
オープンカフェの部分)に入る。今回つくづく思ったが、日本で食事ができる店で、英語のメニューを置いてあるところは
かなり少ないのではないか。街中の英語の表示にしても、最近増えつつあるとはいえまだまだ多いとはいえないし、日本に来る外国人
観光客に同情したくなった。

例によってあまり空腹は感じてなかったためビールこそそれぞれ頼んだものの、後はビーフと野菜とヌードル入り
スープ
におそらく前菜としてメニューにあった鴨のローストにパプリカのムースを添えたものだけにする。しかしこれが
どちらもすごくおいしかった!!スープを頼んだのは私だが、これだけでもう十分すぎるボリュームだった(彼に手伝ってもらった)。
奥の皿のプリン状のものがパプリカのムースだがこれも本当に風味がよかったし、お肉のソースもいい味だった。旅行中食べた現地の
食事で、一番おいしかったのがここだろう。




すっかり満足した我々はいよいよ船着場に向かう。町の中心部から徒歩10分ほど、ガイドブックに「国際船の乗り場と間違えない
ように」とあったので、ちょっと緊張したが、すぐにわかった。

ここはDDSG社(Blue Danyube Schiffahrt GmbH)とMS Austria(Brandner Schiffahrt GmbH)の2社が遊覧船を運航しており、
13:50分発の船はこの2社のどちらもあるので、好きなほうに乗っていいらしい。左に停泊していた船は日本人の
団体さんがどどっと乗り込んでいくのが見えたので、写真右手にちらっと見えているBrandner社の船に乗ることにした。もっとも、
私たちが乗り込んでまもなく別の団体客(日本人にあらず)がそれこそどどっとやってきて、結局どちらも大混みだったのだが。

時間になると我々の乗った船の方がまず出発、ドナウ川とメルク川の合流しているところまでずっとバックで進んでいった。
写真上段右のかなたに見えるのが先ほどまでいたメルク修道院である。
また、下段左は「間違えないように」とあった国際船。ものすごく長〜いのでそんなふうに見えないが、まぎれもなく
船である。その向こうに見えるのは同じく修道院、また下段右はメルクの対岸の町、名前はわからない。





日差しが最初ちょっと気になったけれど、川面を渡る風の心地よいこと!とても船室にこもる気になれず、ずっとデッキでがんばる。
最初心地よく感じた風は後で次第に冷たく感じられたけれど、ストールを巻きつけて何とかしのいだ。

ここは最初に書いたとおり、世界遺産にも登録されているとのことだが、「渓谷」という言葉から想像するほど両脇の山が
険しいわけでもなく、流れはあくまでゆったりとしてまさに悠久の時を感じさせる。地形の変化に富んでいるといわれて
いるようだが、日本の切り立った山の間をくねくねと進む鉄道の風景などに慣れている身としては、むしろスケールの
大きさ
の方が印象的だ。

船内ではみどころが近づくとアナウンスがあり、日本語のそれも流れるのだが、あいにく風とエンジン、水などの音にまぎれて
あまりよく聞こえない(船室の中ならいいんだろうけど)。 それでも皆いっせいに指示された方向を向くので、私も見逃すことなく
いられた。
船に乗って15分ほどして見えてきたのが左のシェーンビュール城、見るからに美しい。右はそれからさらに15分ほどして
見えたアックシュタイン城、ガイドブックによると15世紀の盗賊騎士が捕虜を塔に閉じ込めた後、谷へ突き落としたという
伝説があるとか。

このアックシュタイン城はかなり離れた山のてっぺんにあり、さすがに標準レンズでは豆粒のようにしか撮れなくて、私は持って
いった望遠レンズをここで初めて使用。
船は揺れるし風は強いし、手持ちはちょっとつらいかと思ったが、F3.5にしたらISO100でも1/3200秒前後までいったため、
思ったよりはちゃんと撮れた。もっともこのお城だけで20枚近くシャッターを切り続けた結果ではあるけど。





ところで。実は船に乗ってからもデュルンシュタインで降りるか、クレムスまで行くかずっと迷い続けていた。
旅行初日、ホテルでオリエンテーションを受けたときにこの計画をガイド女史に話したところ、すぐあれこれ調べてアドバイスして
くれたが、デュルンシュタインの駅がホントに小さくてわからず、隣のインフォメーションセンターを駅と間違えたこと、
ホームなどなくて線路が2本走ってるだけ、列車は時間は正確に来るので、目の前で止まったら車掌に「ウィーン?」と聞けば
いい、などかなり「脅かして」くれたのである。そう、ここは無人駅なのだ。

ちなみにJTBでもこのヴァッハウ渓谷ツアーはオプショナルツアーとして準備してあり、昼食もついて1人120ユーロである。
が、我々が買ったヴァッハウ・コンビチケットは約39ユーロ、実に3分の1ですむ。差額は日本語での案内や列車の乗換えで
迷わない(バスを使う)という安心代と考えれば高くないのだろうが、時間に縛られるのはまちがいなく、
マイペースで見物したり写真を撮ったりしたい我々(特に私)には到底無理である。

ガイド女史にしてみれば、日本とはいかに違うか、初めてこの国を訪れた我々にしっかり認識して欲しい親切心、職務上の
必要からだと思うが正直かなりびびってしまった。デュルンシュタイン下船を最初に言い出したのは私だが、ちゃんと駅を
見つけられるだろうか?行き先を間違えて乗ったりしないだろうか?クレムスなら大きな駅だそうなので、無理せずそっちに
した方がよくないか?

ダンナはといえば「どっちでもいいよ」と、寛大といおうか鷹揚といおうか頼りにならないといおうか、あっさりしたもの。
うーん…そうこうするうちにもうデュルンシュタインの船着場が見えてきた。ここで下船する人がざわざわとし始める。



どうしよう??ああ、もう着いてしまったぞ。人が動き始めた。んん…えーい、降りる!!

あー、降りてしまった。迷っていたので列の最後の方、降り立ったらもう船着場に人はまばらである。
気を取り直し、時間を確認。デュルンシュタイン駅16:46分発の列車なので、16時半ぐらいに駅に行けばいい。時間はちょうど
2時間ほどあるので、ゆとりを持って見物できる。

で、降りてしまえばもう周りの風景に気もそぞろ。「伝説の古城がそびえるメルヘンのような町」というのがガイドブックでの
デュルンシュタインのキャッチフレーズである。メルクの町も本当に中世の町そのままといった雰囲気だったが、ここはさらに
メルヘンチックなかおりが漂い、もうそれこそどこを見ても絵になる。かわいい!作り物ではなく、実際に時を
刻んできたのだからホンモノだぞ!

本当に小さな町で、メインストリートといえるハウプト通りはわずか300mほど。あっというまに町のはずれにたどりつき、
そこからクレムスの方向に流れていくドナウ川を見ることができる。
(デュルンシュタイン「市」としてはもう少し周辺を含んで広くなるらしいが、観光の中心となっている旧市街は本当にあっというまに
端から端まで歩けてしまうのである。)

写真上段は船着場のすぐそばにあるリヒャルト・レーヴェンヘルツホテル。下段はハウプト通り、この通り沿いの家並みが本当に
かわいい。
ウィーンの街中でもそうだったが、とにかく花がいっぱいだ。だいたい手入れの簡単なゼラニウムやペチュニアが多いが、
色彩が家の雰囲気にぴったりで美しい。にしても、この狭いハウプト通りを車が通るのには驚いた。



 相変わらずツーリング中の人が多い。


ハウプト通りを上の写真の奥の方目指して歩いていくと、このドナウ川を見晴らす小高い場所に出る。川は写真奥に向かって
流れており、石塀の反対側、私の背中の方はデュルンシュタインに2軒しかないホテルのもう一方、シュロスホテルである。

また、こっちと反対側にまっすぐハウプト通りを歩くと写真右のブドウ畑に出る。
日本と違ってブドウ棚を作らず、こういう形で植えていく。この周辺はブドウ栽培が盛んで、船の中からも山の斜面に一面に広がる
ブドウ畑が見えた。ワインの販売もあちこちで看板が出ていた(とダンナが言っていた)。



とにかく夢中になってよく撮った。トイレを探して駅の方に行った彼と別れて、ハウプト通りを何度行ったり来たりしただろう。もう
街のようすはわかったので、何も不安になることなく時間までしっかりうろうろした。

ということで、2時間などあっという間に過ぎてしまい、列車の時刻が近づいた。さて、問題の駅は??
駅方向に歩いていくと、なるほど立派なインフォメーションセンターが見えてきた。とにかくあのそばにまず行こう。
ウィーン市内でもそうだったが、あまり方向を示す看板が多くない。ここも「駅はこっち」という看板は皆無で、駅のすぐそばまで
行ってやっと汽車のイラストを描いたそれを発見した程度である。

これがデュルンシュタイン駅である。確かに「ホーム」はない。線路が並んでいるだけだ。だが、思ったよりは
はるかに駅らしく
、何だかほっとした。
人も思ったよりはたくさん待っていて(列車はだいたい1時間に1本くらいである)、日本人のカップルが楽しそうにビデオ撮影を
していた。シャッターを押してもらえばよかったと気づいたときはすでに列車が近づきつつあり…んー、残念。



クレムスまでこの列車で10分ほど。事前の調べでちゃんとクレムスで乗り換える列車のホーム番号はわかっていたので、
何一つあわてずにスムーズに乗り換えられ、ここであらためてネットに感謝。また、それまで乗ってきた車両と違い、2階建ての
「立派な」列車
だったので、つい日本の感覚で「グリーン車に乗っちゃったか?急行料金はいらないのかな?」などと
考えてしまったが、もちろんノープロブレムである。
写真は左がデュルンシュタインから乗った列車、右がクレムスで乗り換えた列車。どっちもがらがらだった。




帰りの列車は行きとは違って、ドナウ川の対岸を走った。そうすると風景がまたがらっと変わり、ブドウ畑が非常に多かった。住宅も
ウィーンが近づいてくるとかなり線路のきわまで立ち並んでいたようだ。



クレムスを17時過ぎに出たのだが、約1時間ほどしたところでウィーンのハイリゲンシュタットという駅で下車。ここから
地下鉄で1度乗り換えるだけでウェストバンホーフ駅まで帰れる。市内まで戻ってほっとした。

このハイリゲンシュタットはベートーヴェンゆかりの地として知られており、交響曲「田園」の構想を練った散歩道とか、
聴覚を失ったことに絶望して遺書を書いた家、また「エロイカ」を書いた「エロイカ・ハウス」などなど、じっくり訪ねてみたいところが
山のようにある。次回の課題だな。

今回は彼が「第九」を書いたとされ、現在は酒場になっている「マイヤー」という店に行ってみることにした。
ところが、これが遠い!昼間歩き回っていいかげんくたびれていたため、なおさらそう感じたのだろうが、だんだん
日が暮れてくるというのに、歩いても歩いても見つからない。というか、ほとんど住宅街になっていてとてもそういう店があるとは
思えないような道をゆくためにいっそう心細い。
黙々と歩いていく彼に、ねーほんとにこれでいいのー、もう帰ろうよー、いいよーと喉元まで出かかってくる言葉をのみこみつつ
足を引きずっていく時間の長かったこと、だがついに見つけた! 看板だ! ふぅ。

ここは中庭がブドウ棚になっており、頭の上にブドウがぶらさがっているのがおもしろい。さっそく真ん中に陣取る。が、どうやって
注文するのやらとまどっていたら、飲み物のオーダーだけ取りに来て、料理は室内に入って好きなものを選べという。なるほど。

建物全体の構造はよくわからなかったし、ましてどこでベートーヴェンが第九を書いたのかは見当もつかなかったが、もう
そういうことはよろしい。とにかく疲れたし、乾杯しましょ。

写真の濁り酒風の飲み物は「シュトゥルム」という。9月から10月頃まで、ブドウ果汁が半発酵状態になったものがこうして
出回るとか、ワインよりもちろんアルコール度数が低く、甘めで口当たりが非常によろしい。やや発泡感もあり。
ただ、強力な消化促進作用があるとのことで、この1杯だけにしておいたけど。

またお皿に乗っているのはソーセージ、ポテト、ザワークラウト、クネーデル。カウンターでこれらを指差すと、お皿に一度に
盛り付けて一度にチンしてくれる。ザワークラウトまで一緒にチンするのにはちょっとびっくりした。
ところが、このクネーデルという名前は後で知ったのだが、てっきり白身の魚のつみれみたいなものだろうと選んだものの…
んー、なんか間違ったみたい…。
小麦粉に何かいろいろ混ぜておだんごにし、ゆでてあるらしいが、温かいうちはともかく、さめたらとてもじゃないが喉を通る
シロモノではなかった。いろいろ店によって味が違うのだろうが、ここのはパス。他の食べ物はいずれもおいしく、特にソーセージは
さすが!といった感じで満足だったのだが、願わくはもっと小さいサイズのソーセージも置いてほしいものだ。



結局ホテルにたどりついたのは何時だっただろう。さすがにもうくたくた、画像を確認するのもそこそこにシャワーを浴びて
ベッドにひっくり返る。

早いもので、ウィーンでの滞在も余すところあと1日。最終日は午前中にホテルを発ってしまうので、まる1日使えるのは
明日しかない。考えてみたらまだ買い物もまったくしていないし、またまた忙しい1日になりそう…夜はシュターツオパーだし。
ということで、おやすみなさい…。



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