泥酔の君に肩貸し落ち武者のように
小雨の新宿をゆく

            (水上比呂美   5月14日付朝日歌壇)

 小雨ぱらつく深夜、すっかり酔ってしまったのは恋人だろうか、
それともただの男友達か。「落ち武者」という言葉からして、決して
陽気な酒ではなかったことがうかがえる。

 鬱屈した思いを酒に紛らそうとしたあげく、1人では歩けなくなって
しまった「彼」を支えながら歩く作者の胸にも、今しがた聞いたばか
りの「彼」の話の苦さは重くよどんでいるのだろう。あまつさえ雨まで
降ってきて、傘を持たない、持っていてもさすことができない二人を
少しずつぬらしていく。

 「落ち武者」のように去っていこうとする姿はいうまでもなくわびしい
けれど、「一人」ではなく「二人」であることがせめてもの慰めだろうか。
モノクロの写真を見るような、都会のワンシーン。